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『親なるもの断崖』(曽根富美子)感想「あそこは地獄ですだよ 地獄穴ですだ」


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ネットをぶらぶらとみていると、しょっちゅう出る広告がある。自ら女郎に下った醜女の幼なじみ…というアレだ。幼なじみがの少女の笑顔の画像があらわれたと思ったら、切り替えられた画像では体にボロボロのゴザを巻いて座っている。

広告に書いてある漫画のタイトルは『親なるもの断崖』。いったいどんな漫画なんだ。何度も何度も広告を見ていると気になってきて、とうとうkindle版の単行本を購入してしまいました。

親なるもの断崖 第1部 (宙コミック文庫)

『親なるもの断崖』ざっくりとしたあらすじ

開拓団、軍事工場や港の男たちのために、北海道室蘭市にある幕西遊郭は設けられた。

昭和2年4月。東北地方の農村から、幕西遊郭へ4人の少女が売られてきた。松恵16歳、その妹梅11歳、武子13歳、道子11歳。松恵は遊郭に着いたその日に客を取らされ、首を吊った。

まだ年端もいかない少女たちの、地獄のような人生が始まった…。

『親なるもの断崖』感想

漫画に対して、単純に娯楽を求めるだけなら読まない方が良い作品です。

当時はどんなに貧しくても生活保護を受けるのは恥とされた時代。一家を救うため、女性の「性」が「物」扱いを受ける世の中だったのだそう。

4人の少女たちは年齢や容姿などでふるいにかけられ、芸妓・女郎・下働きとしての人生を歩んでいきます。

遊女たちの現実は、目を背けたくなるほどに厳しい。バチで打たれ、泣きながら唄を覚える芸妓。病気と妊娠のリスクを負いながら、毎晩何人もの客を取る女郎。


松恵姉ちゃんが自殺をした姿をみたお梅は、番頭の直吉に客の取り方を教えてもらい、女郎となります。月のものも始まってないお梅が、「おらはもう女郎だわ」と覚悟を見せたときの顔。印象的でした。


北海道の開拓団のことは、学校の授業でサラっと触れる程度だったでしょうか。

その地に暮らす人々はどこからやってきて、どのような生活をしていたのか。それらを淡々と描いていくことで、地獄と呼ばずにはいられないような現実が想像しやすくなっています。こういう歴史ってあまり語られることはありませんが、だからこそ多くの人に触れてほしい作品だと思います。

「自ら女郎に下った醜女の幼なじみ」はどうなったのか

わずか90円で富士楼へ売られた道子は、客が付くような見た目ではないという理由で、下働きとして働くことになります。きれいな格好をして毎晩男と寝るお梅を見て、「女郎になりたい!」と叫ぶのは広告の通り。今の自分では女郎にならなくてはきれいな着物を着ることもできないし、男に相手してもらうことすらできない…。

そうして道子は、地獄穴・女郎のタコ部屋とも呼ばれる下層の遊郭へ自ら売られていくことを決意します。25円という「タダみたいな値段」で。

道子の最期はただひたすらに、悲しい。栄養失調で体は小さく、体が痛くて着物を着ることすらできない。彼女の人生に幸せな瞬間というものはあったのだろうか。ついつい考えてしまいます。

さて。この90円、25円というのは現在ではいくら相当になるのか。日本銀行のサイトで公開されている「企業物価指数」を使って計算すると、昭和2年の1円は現在の647円相当になることが分かります。

道子が富士楼に売られた時の価格は現在の6万円弱、下層の店へと売られたときは、約1万6千円。これが「人間の値段」としてつけられたものだと考えると、気持ちいいものではないですね。

参考:昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか? : 日本銀行 Bank of Japan

『親なるもの断崖』の作者は曽根富美子先生

『親なるもの断崖』の紙のコミックスは絶版ですが、電子書籍で手に入れることができます。全2巻です。
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作者の曽根富美子先生は、この『親なるもの断崖』の舞台となった北海道室蘭市の出身。近作は、週刊マンガ雑誌モーニングの連載作品『レジより愛をこめて 〜レジノ星子(スタコ)〜』…ってえぇぇえぇ!?なんとなーく読んでたけど、同じ作者だったとは気が付かなかったよ!それぐらい作品のトーンが違いすぎてびっくりしました。

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