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嘘つきアーニャの真っ赤な真実(米原万里)を読みました


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Kindle冬のセールが2014年1月5日まで行われています。せっかくの機会ということで、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実米原万里)」を購入してみました。

なぜこの本を選んだのかというと「なんとなく興味はあるけれど、ほとんど知らない旧共産圏のことを扱っている」という理由なんですけども。

ざっくり言うと、米原万里さんが9歳から14歳まで通ってたソビエト学校時代の親友を30年後に探し出して、再会するという話です。 

米原さんがソビエト学校に通っていたのは1960年から1964年にかけて。その30年後というと、ソ連崩壊、東欧民主化ユーゴスラビアの分裂などといったキーワードが出てくる頃です。

 

この本は「リッツァの夢見た青空」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「白い都のヤスミンカ」と章立てされていて、各タイトルにはロシア国旗と同じ三色が使われています。

白は高貴と率直の白ロシア人を、青は名誉と純潔性の小ロシア人を、赤は愛と勇気の大ロシア人を表す。(ロシアの国旗 - Wikipedia) 

 

この本に出てくる3人の親友は、いずれも個性的な面々。

「マリ、男の善し悪しの見極め方、教えたげる。歯よ、歯。色、艶、並び具合いで見分けりゃ間違い無いってこと」

と、ませたことを言うギリシャ人のリッツア。 

「そうなんだよねえ、アーニャって、まるで呼吸するみたいに自然に嘘つくんだよねえ」 「うん。きっと、嘘つかなくなったらアーニャは死んでしまうかもしれないね」 「そんなことはないだろうけど、嘘をつかないアーニャなんて、想像しただけでつまらないね。アーニャじゃなくなっちゃうね」

どうしようもない些細な嘘をつくことを含めて、皆に愛されていたルーマニア人のアーニャ。

 ヤスミンカは、ひとり爆笑の渦の外にいたけれど、茶褐色の瞳を悪戯っぽく輝かせている。 「可愛くないねえ。可愛くないけど、面白い子だ」  傍らでリッツァが呟いた。

聡明でユーモア溢れ、日本の浮世絵を愛したユーゴスラビア人のヤスミンカ。 

 

出身は様々だけど彼女たちには共通点があって、それは両親が共産主義者で何らかの理由があってプラハに滞在しているということ。

 

ソビエト学校には様々な国籍を持った子供たちが通っているため、まるで一人一人がそれぞれの国の代表のよう。

「一点の曇りもない空を映して真っ青な海が水平線の彼方まで続いている。波しぶきは、洗いたてのナプキンのように真っ白。マリ、あなたに見せてあげたいわ」

 まだ一度も見たことがないギリシャの空を誇らしげに語るリッツァのこの言葉。頭の中に情景が浮かんでくるとともに、祖国への強い思いを感じ取ることができます。

では、30年後リッツァはギリシャに帰ったのかというと…。

 

この本のタイトルにもなったアーニャの物語では共産主義の内部矛盾が描かれていて、なぜ共産主義が崩壊したのか見えてくるような気がします。

「ママは、パパを助けて日夜、労働者階級のために、ブルジョア階級と闘っているのよ。今日も、そのために出かけたのだわ」 「そうかなあ、でもアーニャのママの格好は、ブルジョアそのものって感じなんだなあ」  喉元まで出かかった反論を、私はいつものみ込んでいた。

共産主義こそ、人類最高の目的・手段であるという信念を持っていて、祖国ルーマニアに対する思い入れが人一倍強かった少女時代のアーニャ。それが30年後に再開した時には、体制側にいた親の特権を利用して海外に嫁いでいたという。

 

それは激しい内戦を繰り広げていたユーゴスラビアに住むヤスミンカとは対照的にうつります。彼女は亡命を考えたことがあるけれど、そうしなかった。

ユーゴスラビアを愛しているというよりも愛着がある。国家としてではなくて、たくさんの友人、知人、隣人がいるでしょう。その人たちと一緒に築いている日常があるでしょう。国を捨てようと思うたびに、それを捨てられないと思うの。

 

30年の月日は、かつて共に過ごしていた3人の少女の生活を激変させました。価値観の違いや国への思いは異なりますが、誰もが強く生きている。

 米原さんが3人の親友のもとを訪れてから15年以上経ちますが、リッツァ、アーニャ、ヤスミンカたちはどうしているのでしょうか。

 

 …と、登場人物に思いをはせてみましたが、旧共産圏のソビエト学校の空気を知ることができるという点でも興味深い一冊でした。

ノートの取り方や宿題について。それから、各生徒の出身国についてプレゼンする授業などなど。そして、祖国の関係が生徒同士の付き合い方へと影響するということも。

そうそう。

「人体の器官には、ある条件の下では六倍にも膨張するものがあります。それは、なんという名称の器官で、また、その条件とは、いかなるものでしょう」 

 たまに見かけるこのひっかけ問題。この本が元ネタなのかな?

 

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)