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『 家のない少年たち 親に望まれなかった少年の容赦なきサバイバル(鈴木大介)』感想


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貧困に悩む女性がいるのはわかった。それじゃ、男性はどうなんだろうか。貧困に男女差は、ない。その疑問を紐解くヒントのひとつとなるのが、鈴木大介氏の『家のない少年たち』だと思います。

家のない少年たち

家のない少年たち

 

『家のない少年たち』は、モーニング連載中の『ギャングース』の原案本としても知られているかな。私も『ギャングース』の連載冒頭数話を読んだのをきっかけに、「せっかくだから原案本を読んでみよう」と軽い気持ちで手にとってみました。

著者の鈴木大介氏は、「犯罪をする側の論理」をテーマとして取材活動を行っているルポライター。『家のない少女たち』、『出会い系のシングルマザーたち』に続いて書かれたのが、この『家のない少年たち』です。『家のない少女たち』読者からの「家のない少女たちの話はわかったけど、家のない少年たちはどうしているの?」という声に答える形で作られたのだそうです。

読み終えて本を閉じたとき、大きなため息が出てしまった。あまりにも過酷な生活をしている少年たちがいるという事実に、「これは本当に現代の日本で起きていることなのか…!?」と。

『家のない少年たち』に登場する少年は、誰も彼も目を背けたくなるような子供時代を送っています。もちろん学校なんてまともに通うこともできません。虐待や貧困で家庭からはじき出されてお腹をすかせた彼らは、文字通り「食べるため」に万引きを行う。そうして恐喝や引ったくり、強盗などエスカレートし、もう後戻りできなくなってしまう。こう書くと昔ながらの愚連隊を想像するかもしれないけれど、ネットが発達した今、彼らの犯罪はスマートに変化していて。トバシ携帯と周到なシナリオを用意し、いわゆる振り込め詐欺や違法風俗の経営などなど様々な犯罪の中核を担うようになっているのです。

『家のない少年たち』には少年院で出会った4人の少年たちがつくった「犯罪集団」が登場します。そう、『ギャングース』の元となったのが彼らのことです。いわゆる振り込め詐欺や窃盗など裏家業で稼いだ金を奪う「タタキ」をしていく様子は、不謹慎ながら爽快な冒険嘆に思える。さながら大名屋敷を専門に荒らした義賊、鼠小僧のよう。読み物として捕らえるとすごくワクワクするし、面白い。

でも、これは「単なるお話」じゃないんだよね。実際にこの日本のどこかで生きている少年の人生だ。愛されることを知らず、生きるために犯罪を重ねてきた。いくら荒稼ぎをしても安心して眠ることがなんてムリ。もしかしたら自分たちがタタいた相手からの報復があるかもしれない。ビジネスホテルや旅館を泊まり歩く生活で、年間何千万円という金が消えていく…。

『家のない少年たち』を読んでから改めて『ギャングース』を読んでみると、「これはそういうことだったのか」と腑に落ちる気がした。たとえば、大学生の売人から奪ったヤクをカズキが全部捨ててしまうシーンや、合コンでサイケが女性を相手にしても立たなかった…とか。

『家のない少年たち』に登場するのは、生きるための手段として犯罪を重ねてしまう少年たちだった。その一方で、いわゆる普通の仕事をしつつも貧困に悩む「ワープア社会人」や、病気や怪我など何らかの事情で働けなくなってしまった人もいるわけで。それらについては、また別の本を読んでみることにします。

そうそう、『ギャングース』の元となった龍真たちの犯罪集団の話についつい目が行ってしまうけれど、それ以外にもなかなかに壮絶な話が登場します。振り込め詐欺の仕事の日々を綴った「振り込め詐欺日記」には、こんなに組織化されてきっちりやってるものなんだなってびっくりしましたね…。

ギャングース(1)

ギャングース(1)

 

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『女性たちの貧困 “新たな連鎖"の衝撃』は文字通り、衝撃的な本でした。貧困家庭のループはどうしたら断ち切れるのでしょうか。