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こんなにも特別な僕が認められないのは世間がクソすぎるから。『地下室の手記』感想


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地下室の手記』を読んだ。すごかった。圧倒された。

自意識をこじらせすぎて、がんじがらめになってる人の頭の中はこうなってるんだろうか?かつての私もこんな風だったんだろうか…。脳裏によみがえるのは、かつての黒歴史。『地下室の手記』は、もうやだー!と、いい大人が床をじたばたしたくなるような力を持つ作品なんだと思います。

地下室の手記』の簡単なあらすじ

主人公は元役人の四十歳。遠い親戚が残した六千ルーブリを受け取った後に仕事を辞め、町のはずれでひっそりと暮らしている。

地下室の手記は「地下室」と「ぼた雪に寄せて」の二部構成になっている。

まず何がすごいって、「地下室」の章は全部愚痴。60ページくらいずっと世の中についてずーっと愚痴ってる。
愚痴の内容を一言でまとめると「自分はこんなにも特別な人間なのに、認められないのは世間がクソすぎるから」。

とはいえ、「自分最高!」ってずっと言ってるわけでもない。それならそれで平和なんだけど、「僕は特別な人間だ」と「僕はどうしようもない人間だ」を何度も往復していて、おいおい落ち着けよと言いたくなる。「あいつはクソだ!でもちょっとうらやまし…いやそんなことないし!クソだ!クソ!!」って枕をぼふぼふ殴ってる姿が頭に浮かんできた。

語り口調の文章だから、ずっと対面で愚痴をきいているような気分になる。生気を吸い取られてぐったりした感じになって、文章の力を嫌って言うほど味わった。愚痴の内容がが哲学寄りで、読んでいてちょっと目が滑る部分もあった。勢いはすごいんだが…。

強烈な3つのエピソードからなる「ぼた雪に寄せて」の章

「ぼた雪に寄せて」の章は二十四歳のころの思い出話で、大雑把に言うと3つに分かれている。

  • 見知らぬ人をターゲットに定めて、つけまわしたり個人情報を収集する話
  • 呼ばれてもない飲み会に無理やり参加して場を荒らす話
  • ちょいとスッキリしたあとに娼婦に説教をかます

並べてみるとどれも「なんだそれ…」と言うしかないエピソードだなー。

実際にあったら怖いよ!というのが一つ目の見知らぬ男をひたすら憎む話。
いかにもありそうで頭を抱えたのが、二個目の飲み会の話。2chの報告風に書くとこんな感じかな?*1

9999 :名無しさん@おそロシア:2014/06/12(木)03:33:33 ID:uRu5uVEcc
ちょっと前にあったこと。

 

学生時代の親友Aが遠くへ転勤することになったので、送別会を開こうと友人たち三人で自宅で相談していた。

 

「7ルーブリずつ出せば3人で21リーブリ。これなら4人でもいい食事できるなー」「いやいや、あいつなら『お前らだけに金ださせるなんてできないよ』とか言い出しかねないな。困った。」なんて盛り上がってたところにきたのがB(こいつも同じ学校の同級生)。

仲間内だけで送別会をやろうと思ったのに、よりによってBもその送別会に来るとか言い出した。

 

Bは自分を特別な人間と思ってるような奴で、正直苦手。「僕はお前らとは違う!」って感じがウザイ。
学生時代は人気者のAが気に食わないらしく、よくケンカをふっかけていた。

 

で、案の定送別会でもやらかしてくれた。やたら酒をあおって絡む絡む。

 

見かねたCが「せっかく親友同士で送り出そうとしたのに、無理やりねじ込んできやがったお前が場を荒らすんじゃねえよ」って怒鳴ってた。
そのあとCが雰囲気を変えようと乾杯の音頭を取っても、Bはグラスに口もつけずふてくされてるし。でもってAのためにスピーチさせろという。

 

何を言い出すのかと思ったら、「僕は警句、美辞麗句を使う人、めかしこんだ野朗のウェストを憎みます…」とか「第二点。情事と色男を憎みます。それも特に色男を!」と顔を真っ赤にして暴走モード。


こんなことを言われたら温厚なAだって落ち着いてられない。
激おこ状態のAを見て、何でこんなの親友の送別会に呼んじゃったんだろって本当に後悔した。

 

それからもう相手にしたくないからBは放置。暇なのか時間まで部屋をうろうろしてたけど。

 

当然二次会も置いていった。空気を読めないのか、後をついてこようとして怖かった。

 

一番イラっとしたのが、一次会の会場を出る前に「6リーブリ貸して」ってBに言われたことかな。俺、こいつに15ルーブリ返してもらってないんだけど…。 

書いてていたたまれなくなってきた。実際にはこの友達(?)も主人公のことを小ばかにしたりして、なかなかにいやな奴らなんだけどね。

 

地下室の手記』は、読む人によっては心を相当えぐってくる。痛くてつらくて読めない。まさに自分のことを描かれているようで、平常心でいられない。*2

「ぼた雪に寄せて」を読み終わった後に「地下室」を少し読んでみると、「確かに愚痴りたくなるのも分かるよ…。」とそっと肩を叩いてやりたい気持ちになった。(でも愚痴60ページ超は長いと思う)

 

あとがきによると他のドストエフスキーの作品を読んだり、当時の社会情勢に思いを馳せるとより楽しめるとのこと。『地下室の手記』はドストエフスキーの転換点ともなる作品だそうですし。 

新訳 地下室の記録

新訳 地下室の記録

 

  まんがで読破シリーズにもなっているけれど、あの愚痴っぷりをどう表現してるんだろう…?

地下室の手記 (まんがで読破)

地下室の手記 (まんがで読破)

 

自意識が高すぎるあまりにもがいてる人に「他人はそこまであなたに興味ないよ」って言っても、救われるわけじゃないんだよね。他人から見て些細な問題でも、本人にとっては重大事件だったりするし。ふぅ、どうしたもんだか…。

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ロシアつながりで、子供時代ソビエト学校に通っていたという翻訳者・作家の米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」。あの時代のソビエト学校の空気が伝わってきます。

*1:ちょっと脚色入ってるし、主人公視点は抜いてますが

*2:と、この本を勧めてきた方が言っていた