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『ビオレタ』(寺地はるな)は心地よい毛布のような物語でした


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寺地はるなさんの『ビオレタ』を例えるならば、どんな風景だろうか。

涼しい木陰のハンモックでゆらゆらと揺れている。あるいは、肌触りのいい毛布に包まれながら、陽だまりでウトウトしている。

そんなふうに、暖かくて心地よい物語でした。

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そういうわけで。寺地はるなさん(id:haruna0109)の初単行本『ビオレタ』を入手したので、つらつらと書いてみたいと思います。

『ビオレタ』あらすじ

婚約者から突然別れを告げられた田中妙は、
道端で大泣きしていたところを拾ってくれた
菫さんが営む雑貨屋「ビオレタ」で働くことになる。
そこは「棺桶」なる美しい箱を売る、少々風変わりな店。
何事にも自信を持てなかった妙だが、
ビオレタでの出会いを通し、少しずつ変わりはじめる。
ビオレタ:寺地はるな|ポプラ社

主人公の「妙」について

主人公の「妙」は、卑屈で言葉の裏を読んでしまう性格。言ってもないことを勝手に脳内で補完して、勝手に落ち込む性格のように、見える。

物語は主人公の「妙」の視線で進んでいく。そういうわけで、彼女に感情移入できるかどうかが、この『ビオレタ』を楽しめるか否かの分かれ道なのだと思います。

妙がそんな調子なので、雇い主である菫さんは遠慮なくブスリと刺してくる。

「とりあえず田中さんは、相手の返答をいちいち予想するその鬱陶しい癖を直したら良いと思うのよ」

どちらかといえば私は妙に共感してしまう側。菫さんのこの言葉は、まるで自分が言われているようで…痛い。

そういえば。菫さんは、わが職場のシャキシャキとした上司に似ている部分があるな。そのことも私と妙を重ね合わせてしまう理由の一つかもしれない。

連太郎くんが妙に言った、「勝手に『誰が相手でも同じ』なんて決めつけて僻んでいるから…*1」という言葉は、心の中にしっかりと刻み付けておきたいものだ。

愛すべき登場人物たち

妙がはじめて千歳さんのアパートを訪れたときのシーンが好きだ。

「いまから性交をするのは構わないのですが、長い時間をかけないでほしいのです」

とクソ真面目に告げる妙が可笑しい。

「門限でもあるの」ってとぼけた返事をする千歳さんも変だ。突っ込まずにはいられない。

菫さんの息子の連太郎くんも、女性の好みがユニークすぎる。だっさいポエムをしたためたポストカードを売ってる彼女が好き、だというのだもの。

こんな調子で、登場人物はみんなどこか変わっている。

その一方で「奇人変人大集合!」みたいな大げさなことになっていないのは、私たちにも「傍から見たら何かヘン」みたいな部分があるからなのだと思います。みんな変わってて、それが良い。

そうそう。
妙のお姉さんが考えたという「イスリロン」という言葉もいい。薬の名前っぽくて。

『ビオレタ』で心に残ったエピソード

棺桶を購入し、観覧車に乗った男性のエピソードですかねー…。彼についてはに、くっそ、このクズめ!のようなことを確かに思った。思ったけれど、もう一生詫びる機会を逃してしまったというのはいったいどんな気持ちなのか。それを考えると、胸やら胃やら…とにかく内臓が痛くなってくるのです。

後悔せずに生きるというのは無理だ。だけど、少しでもその後悔を減らせるように、毎日を過ごすことができたら。ちょっとは風景が違って見えるのかもしれません。

『ビオレタ』を読み終わって

個人的にあまり読まないジャンルの本だったのもあって、新鮮な読書体験を得ることができました。

私も誰かの庭になりたい。ぶらりと立ち寄って、お茶でも飲みつつ少し雑談でもできるような。「いつも心に棺桶を」と唱えつつ、庭にどんな花を植えてみようかな、なんて思ってしまうのです。

ちなみに『ビオレタ』を手に取る前に読んだ小説は、『ナイルパーチの女子会』と『すばらしい新世界』でした。前者はネット時代の女性同士のドロドロした関係を描いた作品、後者はディストピアものの古典です。セレクトが暗い。

risa.hatenablog.com

読み終わった直後はこんなこと書いてた

*1:続きは読んで確かめて