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女の友情が巻き起こす悲劇を描く『ナイルパーチの女子会(柚木麻子)』感想


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小説を読んでいて「まだこんなにページがあるのか」と、何度も確認してしまったのは久々の体験だった。それはつまらない話だから早く結末が知りたいという、退屈な気持ちからではない。一刻も早く、内臓をぎゅうぎゅうと絞られるような気持ち悪さから逃れたい。そんな恐怖心からだったのだと思います。

ナイルパーチの女子会 (文春e-book)

目次

ナイルパーチの女子会』との出会い

ナイルパーチの女子会」を手に取ったのは、書店で「山本周五郎賞受賞」のポップをみて「へぇ…どんな話なんだろ」と何となく興味を引かれたという偶然のような出会いから。最近小説を読んでなかったし、たまには読んでみようかな、という気分も引き寄せられた理由の一つでした。

パラパラと捲ってみると、面白そうなキーワードが出てくる。

ブログを運営している主婦とブログ読者のキャリアウーマンの友情描いた作品だということ。そして、その友情が歪んだものへと変わっていく…。

そういうスリリングさと、ブログがキーアイテムとして使われるところに面白みを感じて購入してみました。

早く終わって欲しい物語

まさか、わずか全体の15%を読んだところで、背中がぞわっとする目に遭うとは思わなかった。心がざわざわとする描写は最後まで休みなく続くのです。

早く!心を落ち着かさせて!!とお願いしたくなった本って久々*1。破滅に向かってるのは分かりきってる登場人物たちを見ていくのが辛い。「この子は心のオアシス」と思えるようなキャラもいないし…!

震えるほど恐ろしいのが、キャリアウーマンの栄利子の必死さ。同性の友達を作るのが苦手な彼女は、やっとお互い分かり合える親友の「翔子」を手に入れた…はずだった。それなのに、なんで!という栄利子の悲痛な叫びが紙面から聞こえてきます。

いやぁ…栄利子は正しいんです。正しいが故に、気持ちが重過ぎて息がつまりそうになってしまうんです

あの女には普通と異常の境目がまったくない。正論をまくしたてこちらを追い詰め、まるで作業をこなしていくように逃げ場を一つ一つ奪っていく。本人は本気で良かれと思っている。

相手が思い通りの振る舞いをしないと「あなたはそういう人じゃない」と詰るような人は、正直なところ避けて通りたいよね。でも、それを栄利子は許さない。


幼馴染の圭子が栄利子から離れようとしたときのエピソードも壮絶だった。

自分を避けるようになった圭子を栄利子は執拗に追い回した。登下校を待ち伏せするのは序の口で、母親に気に入られているのをいいことに勝手に部屋に上がり込み、机をあさったこともあったという。圭子は仕方なく、恋人が出来たのであなたと遊ぶ時間はない、と噓をつくことにした。しかし、かえって状況は悪化してしまう。

年齢を重ねると趣味趣向が変わっていく。その過程で友人が離れていくのはよくあることだ。でも、栄利子はそれを許せず…ストーカーと化してしまうのでした。そして、翔子との関係でもそれを繰り返してしまう。

ブロガーと読者の距離

個人のブログを長期に渡って読んでいると、まるで昔からの友人のような親しみを感じてしまうことがある。日々の生活の様子は手に取るように伝わってくるし、現実世界ではとても言いにくいようなことだって画面を通して知ることができるからだ。

読者からの「親近感を得られる」という言葉は、書き手にとって嬉しいようなこそばゆいような、悪い気持ちではないとは思う。ただ、それも節度ある距離を保ってこそ。

「友達だから、他の人が言えないようなことを言ってあげてるんじゃないの。あなたが成長出来るように、あえて言い辛いことを言ってあげてるんじゃないの」

「友達って何? 私とあなたはこれまでたった五回会っただけだよ。遠慮なくなんでも言い合って許し合えるほど、親しくないじゃない」

過去のブログ記事から翔子の行動を推測し、栄利子がファミレスで待ち伏せをするシーンは、最高に背すじがブルっときましたね。

断片的な情報を寄せ集めれば、いくらでも行動範囲を絞ることはできるのです。

翔子もなんでもブログに書きすぎだろ…と、突っ込まざるを得ないけれど。*2

これは、特別な話ではない

仲良しだった友達が離れていったときの寂しさ、困惑。「女同士の付き合いは面倒くさい」といいつつも、和気あいあいとした女性グループを見た時の疎外感。これらは自分にも思い当たる節があって、読んでいて心をキリキリと痛めつけます。

栄利子の圧倒的に空気が読めず、自意識過剰なところも見ていてつらい。かつての黒歴史がぽわん、ぽわんと浮かび上がってきて、思わず頭を抱えそうになりました…。

異常と思える栄利子の行動だって、なにかのきっかけがあれば自分がやってもおかしくない。そんな風に思ってしまうのは、物語終盤における翔子の行動からでしょうか。

獰猛なナイルパーチに捕食される側だったのに、気が付いたら自分がナイルパーチになっていた…。自分の姿というのは、自分ではわからないものです。

心に残った言葉

商社に勤める栄利子の上司が、彼女に向かって言ったこのことば。

根底のところで人を信じていないんだろう。だから君に誰も近付かないんだと思うよ。そうやって型にこだわり、常に心を武装する君に、誰が本音で向き合うんだ? 君の仕事のやり方にも言えることだと思うよ

何故、そうやって武装するくせに、人を求めるんだ。ならば、一人で居なさい。人を信じられるようになるまで、ずっと一人で居ることだよ。少しも恥ずかしいことではないんだよ。いい加減、大人になりなさい

ざくざく刺さる、殺傷能力の高いセリフだよ…。

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